田といふところはほんたうにトンネルが多い、入るに八つくゞつたが、出るに五つくゞつた、それはトンネルと書くよりは洞門と書いた方がよい。
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・雨だれの音も年とつた
・一寝入してまた旅のたより書く
酔ひざめの水をさがすや竹田の宿で
朝の鶏で犬にくはれた
谷の紅葉のしたゝる水です
・しぐるゝ山芋を掘つてゐる
ぼう/\として山霧につゝまれる
・いちにちわれとわが足音を聴きつゝ歩む
・水飲んで尿して去る
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こゝは片田舎だけれど、さすがに温泉場だけのよいところはある(小国には及ばないが)、殊に浴場はきたないけれど、解放的で大衆的なのがよい、着いてすぐ一浴、床屋から戻つてまた一浴、寝しなにも起きがけにもまた/\一浴のつもりだ! 湯の味は何だか甘酸つぱくて、とても飲めない、からだにはきけるやうな気がする、とにかく私は入浴する時はいつも日本に生れた幸福を考へずにはゐられない、入浴ほど健全で安価な享楽はあまりあるまい。
造り酒屋へ行つたら、酒がよくてやすかつたので、おぼえず一杯二杯三杯までひつかけてしまつた、うまいことはうまかつたが、胃が少々悪くなつたら
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