だ
・馬がふみにじる草は花ざかり
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朝一杯、昼一杯、晩一杯、一杯一杯また一杯で一杯になつてしまふのだらう。
心境はうつりかはつてゆく、しかしなか/\ひらけない、水は流れるまゝに流れてゆけ。
けふも旅のヱピソード――行乞漫談の材料が二つあつた、或るカフヱーに立つ、女給二三人ふざけてゐてとりあはない、いつもならばすぐ去るのだけれど、こゝで一つ根くらべをやるつもりで、まあユーモラスな気分で観音経を読誦しつゞけた、半分ばかり読誦したとき、彼女の一人が出て来て一銭銅貨を鉄鉢に入れやうとするのを『ありがたう』といつて受けないで『もういたゞいたもおなじですから、それは君にチツプとしてあげませう』といつたら、笑つてくれた、私も笑つた、少々嫌味だけれど、ナンセンスの一シーンとしてはどうだらうか、もう一つの話は、お寺詣りのおばあさんが、行きずりに二銭下さつた、見るとその一つは黒つぽくなつた五銭の旧白銅貨である、呼びとめてお返しするとおばあさん喜んで外の一銭銅貨を二つ下さつた、彼女も嬉しさうだつたが、私も嬉しかつた。
今晩は特別の下好物として鰯と茗荷とを買つた、焼鰯五尾で弐銭、茗荷三
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