婦らしい、子を背負うて安来節をうたふのもわるくないし、雑巾で丹念に板座を拭くのもよろしい。
一昨日、書き洩らしてはならない珍問答を書き洩らしてゐた、大堂津で藷焼酎の生一本をひつかけて、ほろ/\機嫌で、やつてくると、妙な中年男がいやに丁寧にお辞儀をした、そして私が僧侶(?!)であることをたしかめてから、問うて曰く『道とは何でせうか』また曰く『心は何処に在りますか』道は遠きにあらず近きにあり、趙州曰く、平常心是道、常済大師曰く、逢茶喫茶、逢飯食飯、親に孝行なさい、子を可愛がりなさい――心は内にあらず外にあらず、さてどこにあるか、昔、達磨大師は慧可大師に何といはれたか、――あゝあなたは法華宗ですか、では自我偈を専念に読誦なすつたらいゝでせう――彼はまた丁寧にお辞儀して去つた、私は歩きつゝ微苦笑する外なかつた。
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まゝよ法衣は汗で朽ちた
・ゆつくり歩かう萩がこぼれる
訂正二句
酔うてこほろぎと寝てゐたよ
大地したしう夜を明かしたり波の音
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昨夜は榎原神社に参詣し、今日は束間神社に参詣した、前者は県社、後者は郷社に過ぎないが、参拝者はずゐぶんに多いと見えて、そこには二三十軒の宿屋、飲食店、土産物店が並んでゐた、かういふ場所には地方的特色が可なり濃厚に出てゐる。
同室三人、箒屋といふむつつり爺さん、馬具屋といふきよろきよろ兄さん、彼等にも亦、地方的特色が表現されてゐる。
十月十日[#「十月十日」に二重傍線] 曇、福島町行乞、行程四里、志布志町、鹿児島屋(四〇・上)
八時過ぎてから中町行乞二時間、それから今町行乞三時間、もう二時近くなつたので志布志へ急ぐ、三里を二時間あまりで歩いた、それは外でもない、局留の郵便物を受取るためである、友はなつかしい、友のたよりはなつかしい。
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旅の子供は夕べしく/\泣いてゐる
旅はおかしい朝から夫婦喧嘩だ
・親によう似た仔馬かあいやついてゆく
みんな寝てしまつてよい月夜かな
・月夜の豚がうめきつゞけてゐる
月光あまねくほしいまゝなる虫の夜だ
月の水をくみあげて飲み足つた
明月の戸をかたくとざして
故郷の人とはなしたのも夢か
伸ばした足に触れた隣りは四国の人
秋の白壁を高う/\塗りあげる
松葉ちりしいてゐますお休みなさい
・松風ふいて墓ばかり
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