日朝から晩まで、来春から田圃をどうするかと歎き暮した。
春野も近づいて、源治はヒヨツコリと耳寄りな話を聞きこんだ。一里ばかり離れた部落の倉治という家で、十六になる幸助という三番目の息子を、若勢に出すと言つているというのであつた。源治は雀躍《こおど》りした。十六と言えば武三よりも一つ年が若いが、使つているうちに直きに一人前働けるようになる。そんな子供ならば、他にそんなに頼み手もあるまい。これは一つ、是が非でもものにしなければと、源治は早速ビツコ足をひきずるようにして頼みに出かけた。
「幸助のことですか、幸助ならば、先に本家から頼まれています」
「本家ツて――どこの」
「あなたの家の――」
ほかならぬ兄の源太郎が、もう先手を打つていると聞いて、源治は顔をかげらせた。源太郎の家では、長男が早くから樺太に渡つて向うで世帯を持ち、次男は出征、三男の源三郎が田圃を仕付けていたが、つい最近これも召集されて、源太郎はスツカリ戸まどいしていた。
「本家は、何俵出すと言つたかな」
よし、それならば米を余計奮発して、幸助をこつちに取ろうと、源治は身がまえた。
「十俵出すという話でしたよ」
「えツ――十
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