それはさうした言葉はわからなかつたにしても、その話しの調子に、その笑ひ声に、わるく問題にしてゐるやうな気配に、それとなく母子は圧されたといふやうにして、その路傍の草の中に立どまつて了つた、一行の通り過ぎて行くのを待つてゐるといふやうに。
一行はすれ違つて先になつたにはなつたけれども、峠までは一緒に行つてもらひたいと思つてゐるので、その母子づれのあとからつゞいてやつて来るのを待つやうにして歩調をゆるめて歩いた。
と、その女は、一行の案内者である支那人に向つて頻に声高く何かを言ひ始めた。真面目な顔で、とがつた声で、激昂[#「激昂」に傍点]した調子で。
こつちの言葉が先方に通じないと同じやうに、その女の言葉も一行にわからなかつたけれども、兎に角そのたゞ事でないといふことは、その声や調子や表情でわかつた。甲走つた女の声の連続がしきりに一行の後にきこえた。
「どうしたんだえ?」
一番先きにかうBが言つた。
「本当だね。何か怒つてゞもゐるのかしら?」
「だつて怒るわけがないぢやないか?」
「さうだな……別に怒るわけはないな――」
Sは案内者の支那人の傍に行つて、何かしきりに聞いてゐたが
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