そがしき浮世の影ぞ あらはるゝ
そこに眼に見る ほどちかき大路をば
    カメロットへ うねくれる
そこに 河水も 渦まきてまきめぐり
又 そこに あらくれる村のをのこも
きぬ赤き市の乙女も
    いでてゆく 此の島より

あるときは うれしげなる乙女子の一むれ
さては やすらかに駒あゆまする老法師
あるときは 羊飼ふ ちゞれ毛のわらべ
若しくは 長髪の小殿原 くれないのきぬ着たる
    通りゆく影ぞうつる 多楼台のカメロットへ
あるはまた 其の碧なす鏡のうちに
ものゝふぞ 駒に乗りくる ふたり また ふたり
あはれ まだひとりだに真心を傾けて此の姫にかしづく武士もなし
    此のシャロットの妖しの姫に

さはれ 姫はいつも/\綾ぎぬを織ることを楽しみとす
鏡なる怪しの影を織りいだすことを
けだし ともすれば さびしき夜半に
亡き人の野べ送りする行列 喪の服に鳥毛を飾り松明をともしつらね
     さてはとぶらひの楽を奏し カメロットさして練りゆきけり
又は 夕月の高うなれるころ
まだきのふけふ連れそひし若き男女の むつやかに打語りつゝ来たりけり
あはれ倦みはてつ影見るもと
 
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