れよりはるかに効果は大きい。
塩は万歳《まんざい》に似ていると思え。一合の汁に入れた塩の十倍を一升の汁に入れて煮て見|給《たま》え。集団すれば強くなるのは人間だけとはかぎらない。
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料理を教えるのに、塩何グラム、砂糖何|匁《もんめ》などと、正確に出すなら、ねぎを適宜《てきぎ》に刻《きざ》み、塩胡椒《しおこしょう》少々などというな。なになにを何グラムというような料理法を、科学的文化人の生活だと思っている人がある。科学的文化人とは、塩何グラムではなく、科学する生活態度を身につけた自由人のことである。
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野蛮人《やばんじん》には、歯磨き粉を呑《の》ませても、胃病がなおるということだ。
ライスカレーをつくる時、メリケン粉と炭酸をまちがえて入れる人が居はせぬか。しかも、食べてなおかつ気付かぬ人も、なきにしもあらず……。ただし、こんな料理は胃病のときにかぎりつくれ。
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料理をする時は、女の人は特に頭を手拭《てぬぐい》でカバーして料理すべし。ふけや髪の毛は味の素の代用にはならぬ。
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美味《うま》いもの食いの道楽《どうらく》は健康への投資と心得よ。
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日本料理は日本の美しい器にて、これは茶道にてきわめられている。けれども、今日《こんにち》の日本料理はもっと豊富なものになっている。また、科学的方面からも考察されている。われわれの味覚の嗜好《しこう》にも変化を来たしている。料理に使用される材料にしても、時代的な変遷《へんせん》が大《おお》いにあるであろう。今日の料理の堕落《だらく》は商業主義に独占されたからだと考えられる。家庭の料理は滅びる。家庭の料理が滅びることは、それだけ心身ともに不健康な人間が多くなることだ。
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料理に一番大事なことといえば、それは材料のよしあしを識《し》ることである。材料のさかな、あるいは蔬菜《そさい》など、優れてよいものを用いる場合は、料理は、おのずから易々《いい》たるものである。よほど頓馬《とんま》な真似《まね》をしないかぎり、美味《うま》い料理のできるのが当然である。
例えば瀬戸内海の生きのよいさかながあって、それが折りわるく下手《へた》な料理人の手にかかったとしても、種がよいために、どうにかこうにか美味く食えるものである。野菜にしても、京都のものなどで、新しいものを料理するならば、文句なしに美味いと決っているのである。それが場ちがいのもので、しかも古びた、さかなでいうなら、色の褪《あ》せた、臭気《しゅうき》のあるようなものでは、いかに腕のある料理人でも、どうしたって美味くはならないものである。野菜にしても、萎《しな》びて精気を欠いていては、味も香気もなく、ただもうつまらない食物にしかならないのである。こう考えて物が判《わか》るとき、材料のことをまず第一に心がけねばならぬ必要が起こるのである。材料の良否を心がけると同時に、次には材料の見分けがしかと掴《つか》めなくてはならないのである。
それには経験が充分できていないと、材料を目前にして、よしあしが分らないであろうから、買い物学とでもいう買いものの苦労を重ねなくてはならないのである。例えば婦人が呉服ものの選択に苦労するようにである。見れども見えず、食えどもその味が分らないというようでは、料理を拵《こしら》える資格もなければ、食う資格もないわけである。材料の良否は人の賢愚《けんぐ》善悪にも等しいもので、腐ったようなさかな、あるいは季節はずれの脂《あぶら》っ気《け》を失ったさかななどは、魂の腐った人間に比すこともできれば、低能あるいは不良に比すべきもので、優れた教育家の苦心が払われたとしても、その成果はおぼつかないものであると同様である。
ことに食物の材料は、さかなひと切れにしても、だいこん一本にしても、同じ値段で相当良否の別がある場合が間々《まま》あるのであるから、まず物を見てよいと認識して後、はじめて買いものをする習慣をつけることが肝要である。男なら酒のよしあしをやかましくいう酒|呑《の》みのように、ものの吟味《ぎんみ》を注意深くするようになれば、料理のよしあしが語れるわけである。そこで概念的に考えねばならぬことは、値段の安いものは概《がい》して下《くだ》らぬものが多く、値段が高いものは総じて品物がよいということである。それは何物でもある。ただし、掘り出しものは別である。それはいうまでもない。
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誰でもふつうに、商売人の手になった料理は、美味いものかのように考えるが誤認である。なるほど、商売人は料理の玄人《くろうと》である。しかし、玄人はいろいろの条件において料理をする。第一に値段を考えて料理をするであろう。邪道《じゃどう》であるけれども、商売上であれば、採算の
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