並べたまぐろの上に、徐々《じょじょ》にかたすみから熱湯を、粉《こな》茶のざるを通して注《そそ》ぐ。まぐろの上の方から平均してまんべんなくかけていくと、まぐろの上皮がいくらか白んでくる。そうして、御飯が透明な煎茶におおいかぶさり、上のまぐろが、茶に浸る程度に茶を注ぐ。
 次に、まぐろを箸《はし》で静かに御飯の中に押し込むようにすると、裏の方のまだ赤い色をしたところまでが白くなってくる。透明な茶は乳白色になり、醤油もまじって茶碗の中にこもってくる。
 まぐろを半熟以上に熱しては、美味は失われてしまう。
 もっと味を濃くしたい人は、ここで茶碗の蓋《ふた》をして、しばらく静かに放置し、中に充分に味がこもるのを待って、濃淡好みの茶漬けとした上で、口に掻《か》き込む段取りとなるのである。
 どちらかといえば、蓋をしない茶漬けの方が香気も高く、熱く、まぐろも熱し過ぎないので、美味《おい》しいのであるが、蓋をする方は、飯がほとびて[#「ほとびて」に傍点]いけない。その上、まぐろが熱し過ぎるというのは野暮《やぼ》である。まぐろの生《なま》っ気《け》を好まない人は余儀《よぎ》ないことであるが、前者の
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