、茶は濃くなり、ざあっと一気にお湯を注げば、茶は薄くなる。熱湯の注ぎ方によって、濃淡自在にお茶は加減できる。
お茶漬《ちゃづ》けには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。しかし、抹茶《まっちゃ》や煎茶《せんちゃ》にしても、最上のものを用いることが秘訣《ひけつ》だ。茶が悪いと、茶漬けの中に、なにが入っていようが駄目《だめ》である。
要するに、茶がよくなければ茶漬けの意義がない。
茶漬けのまぐろ
さて、茶漬けに用いるまぐろだが、しびまぐろ[#「しびまぐろ」に傍点]がいい。
しびまぐろは、ふつうすし屋で使っているまぐろのことである。まぐろのトロといって、白っぽい、脂《あぶら》っ濃《こ》いところをよろこぶ。脂っ濃いところは、男の四十歳以前の好みである。四十歳以後になると、だんだん脂っ濃いものから嗜好《しこう》が遠ざかる。
茶漬けに用いるまぐろの材料も、トロ、中トロ、赤身、好みによって選択すればいいわけである。
脂の少ない赤身は赤身で美味《うま》いし、脂の多いところはまたトロで美味い。まぐろの質さえ吟味《ぎんみ》すれば、各人の好みに任せて、材料をととのえるべきである。
しびまぐろのほかに、かじきまぐろ[#「かじきまぐろ」に傍点]だとか、きはだまぐろ[#「きはだまぐろ」に傍点]とかがある。これらを茶漬けに用いても、決して悪いものではない。しかし、きはだとか、かじきは脂肪が少ないから、脂っ濃いものを好む人たちには、ちょっと軽い感じである。老人向き、女人向きなどには、かえってこの方が適していよう。それも実験して、各自の嗜好に任せればよいと思う。
お茶漬けの作り方
茶碗に飯《めし》を盛る時、腹の空《す》き加減にもよろうが、ぜいたくものは飯を少なく盛ることである。飯を多く盛ると、茶がたくさん入らぬ。労働者の食べる茶漬けは、飯がたくさんで茶の少ないのが美味《うま》い。だから、大き目の茶碗がよい。ぜいたく者の茶漬《ちゃづ》けは、飯《めし》が少なくて茶が多いほうが美味い。飯の多い方の茶漬けは番茶がいいが、飯の少ない方の茶漬けには煎茶《せんちゃ》を可とする。
飯は茶碗に半分目、もしくはそれ以下に盛って、まぐろの刺身《さしみ》三切れを一枚ずつ平たく並べて載せる。それに醤油《しょうゆ》を適当にかけて加減する。大根おろしをひとつまみ、まぐろのわきに添えればなおよい
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