分りました。たとえば、どんなことでしょうか」
「いよいよ、君の聞きたいところへ追い込んできたね、ハハハ」
「早く聞きたいものですわ」
「では、話そう。日本には今から少し前にお女郎というものがいた」
「先生、お女郎の話じゃありません。料理の話です」
「待て、待て、ここからいわねば分らん。お女郎はたいへん上手だ、なにが上手か分るか」
「分ります。それが料理とどんな関係があるでしょうか」
「たとえば……だ。そう、いやな顔をせずに聞きなさい。女房は下手だが、お女郎は上手だ。客の喜ぶところを知っておる、だが、これは形だけのものである場合が多い。つまり、商売人だ。料理屋の料理もそうだ、客の好むところを知っておる。そのかわりあとで、金をとられる。女房に枕代や料理代を払うやつはない。だからといって女房たるもの、ゆるんではならぬ。長年の間に、たいせつな真心さえも忘れてしまうものがある。だから、主人は料理屋にばかり行き、よそに女をこしらえる。
真心があれば、そこにテクニックというものが必要だ。テクニックを重要視してはならぬ。さりとて、これを軽蔑《けいべつ》することはいかぬ。別にお女郎のマネをしろとはいわ
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