ひとを利用してやろうと思う奴からとどくもの、いろいろだからね。そのなかで、そのひとが差し入れ人の名を聞かずとも、すぐに分る差し入れ弁当があった。それは、そのひとの、おっかさんからとどけられるものだった。そのひとはすぐに、それが母親からのものだと、分ったそうだよ」
「先生、やはり、その母親からとどけられる弁当には親切があるからですね」
「そうだ、そうだ、誰の弁当にもまさる真心がそのひとに通じたのだな」
「分りました。先生、ではいちばん親切な料理は、母親や女房の作ったものということになりますわね」
「そうだとも、そうだとも」
「では、先生、伺いますが、恋女房がそれこそ真心をつくしてこしらえてくれた料理がぜったい世の中でいちばんおいしいはずなのに、よそで食べる料理のほうが、はるかにおいしい場合があると思いますが、いえ、たいていの場合、家庭料理より、料理屋の料理のほうがおいしいことが多いのですが、これはどうしてでしょうか、先生」
「うむ、君はいいところを突いてくるね。わたしは、親切心、真心がいちばん大事だといったが、それがいちばんおいしいとはいわなかったはずだ」
「うまくお逃げになりましたね、
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