ダーンうぐいすもやはり梅の木に止まる。あなたが概念に囚われて机上で歌を作ろうとするから陳腐なのであって、あなた自身の目でこれを見て、感じて、歌われれば、決してそれは古くはないはずです。どうです?
 梅は何百年も前からある。うぐいすもそうだ。料理の材料だって人間の食べるものは、だいたい決まっている。古くから、人間が食べなれている料理だから、この料理の取り合わせは陳腐だといい切ってしまっていいかどうか。一つ、誰も試みていない新しいものを取り合わせてやれ。握り寿司にすましは古いから、一つ、すましのかわりにとんかつを添えてやれ、ということになったら無茶苦茶。うぐいすは梅を好む。好むところに調和がある。すきやきの後では茶漬けが食いたい。洋食の前にスープを飲めば食欲が出てご馳走がおいしい。すべて、好むところに調和がある。自分で食べてみればよくわかる。虎の掛け物に、置き物は竜を置いたり、うなぎの蒲焼きと一緒にはもの照り焼きを出してみたり……すべて調和か統一かが大切だ。そして、季節のいちばん感じられるものがいいとわたしは思う。色の配合も、調和か統一だと思う。そうかといって、今までのやり古された真似ばかりでは困る。真実を少しも見ず、聞かれて返事のできないようなことはやらぬ方がよいと思う」
 歌人はひねり回していたハンカチでそっと鼻の頭を押え、それからはなにもいわないで考えていた。料理のことを考えているのか歌のことを考えているのか、それは知らない。
 みなさんも自分の今やっている仕事の真実から、料理のことへ心を通わせて考えてみればわかっていただけることと思う。



底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
   2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
   1993(平成5)年発行
初出:「独歩」
   1953(昭和28)年
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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