インチキ料理、でたらめ料理にごまかされて生活しておるとすれば、世の中が殺伐になるのは当たり前だ。「衣食足りて礼節を識《し》る」は今日においても真実の言だ。わたしは、わたしの体験を誇りがましくいうつもりは毛頭ないが、今述べたような食生活を長々と続けた結果、わたしは七十余歳の今日まで、およそ病気らしい病気をしたことがほとんどない。常にひとから酒後の顔色と間違えられるまでに血色が良いらしい。第一寒さを覚えぬ。暑さも平気である。仕事にしても通常人の数倍はして来たつもりである。能《よ》く笑い、能く談じ、金のないのも、ひとの笑うのも一切苦にならぬ。だから健康なのだとひとはいう。己の欲する好餌《こうじ》ばかりの生活は、これこの通りということになろうか。



底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
   2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
   1993(平成5)年発行
初出:「芸術新潮」
   1954(昭和29)年
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年12月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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