美食七十年の体験
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)言《げん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大谷|光瑞《こうずい》
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 美味談も考えてみるとなかなか容易ではない。前に木下の『美味求真』、大谷|光瑞《こうずい》の『食』、村井|弦斎《げんさい》の『食道楽』、波多野承五郎の『食味の真髄を探る』、大河内正敏の『味覚』など、それぞれ一家の言《げん》を表わしてはいるものの、実際、美味問題になると、いずれも表わし得たりと学ぶに足るほどのものではない。
 おのおの美味道楽の体験に貧困が窺《うかが》えて敬読に価しない恨みがある。というのは、料理を作る力の経験を欠くところから、ものの見方、考え方が、皮相に終わってしまって物足りないのである。また一面、先天的素質にものいうものがないため、という理由もあろう。それに第一、美に感心がうすい。
 いずれにしても、食いもの話はあまりにも広く深いので、軽々《けいけい》に論じ切れるものではないようだ。だから多くのひとの食物談というものが、いつの場合もでたらめである。極言するなら、食物を楽しみきる術
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