。およそ病気と称するものはなに一つない。うまいものを食って、寝たいだけ寝る。野鳥の自然生活にすこぶる似ているのが、小生のあけくれである。
早寝、遅起き、昼寝好き、八時間以上十二時間は寝る。眼が覚めたとなれば常人の幾倍かの仕事をする。毎日自家の湯に第一番に入る。湯から出れば間髪を入れずビールの小|壜《びん》を数本痛飲する。無人境に近い山中の一軒家においてである。目に見るものは、虚飾のない自然のままの山野であり、家の中は最高に近い古美術品である。他は、犬であり、猫である。にわとりもいる、鴨もいる。野鳥はのびのびと遊んでいる。このように、小生の周辺には小生の健康を害するようなものはなに一つない。小生の健康はこんなところから作り出されているのかも知れない。
もちろん、親なく、子なく、妻もない孤独生活である。これも世間には類がないかも知れない。小生に勝手|気儘《きまま》な自由ができるゆえんのものは、小生を束縛するものが皆無であるからだろう。親兄弟や妻子があっては、なんとしても妥協生活を免がれないだろう。
ヤセ浪人では家族全部が好むところに従うわけにもゆくまい。自分ばかり好むままの生活、好む
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