れる。急流の中を苦労して泳ぎながら、岩に生えている苔《こけ》を食うので、頭はしまって小さいが鼻端が発達している。これに反し養殖のあゆはなんといっても池の中でいわしやさなぎの餌を与えられて急激に育つため、鰭が発達せず、腹部が張っていたずらに太っている。匂いを嗅いでみると、ほんとうのあゆにあるような香ばしさがなく、いわしかなにかのようないやな匂いがある。焼いてもそんな匂いがする。
 あゆは串の打ち方と火加減が大切である。串を打ったら若あゆならまず鰭塩といって鰭に塩をする。塩加減は、小さいものに鰭塩をすれば、すでに身にも塩が回るから、さっと軽くするのがよい。焼くには、火回りがもっとも大切だ。腹部を強く尾の方は余熱で焼けるくらいにしないと、とかく尾鰭をさっと焼いて、せっかくの姿を台なしにする。まず表になる方を比較的ゆっくり丁寧に焼き、裏は些《いささ》か強く焼き上げる。焼くときは団扇《うちわ》を用いて脂をよけることが肝心である。
 あゆはたで酢がつきものだが、たで酢の作り方はまずたでを擂鉢《すりばち》で摺《す》り、絹漉《きぬご》しにかけ、後で酢を入れる。この場合たでの沈殿を防ぐために飯粒を入れて
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