若鮎について
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)酒匂川《さかわがわ》
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 あゆの小さなものは、どうかするとうまくないというひともあるが、わたしは一概にそうは思わない。
 小田原の手前に酒匂川《さかわがわ》という川がある。まだ禁漁中にあの近辺のひとが酒匂川のあゆをよく盗み取りするが、わたしはそれをもらうことがあって、たびたび食ったことがある。大きさはまだやっと一寸ぐらいのものだが、ちょっとあぶって食うと、実に調子の高いうまさが舌になじむ。
 もっとも、最初東京にはいってくるものは、江州《ごうしゅう》地方でいわゆるあゆの飴煮《あめに》にするものであって、これはあまり美味なものではない。あゆは不思議な魚で、水勢のないところでは大きくならない。また同じ水勢であっても、水質や餌《えさ》の関係であろうか、川によって成長率が違う。一般に大きな川のあゆは大きくなり、小さな川のものは小さく育つようである。
 琵琶湖のあゆは非常に小さく、一年経っても若あゆ以上に大きくならない。大きくならないで一人前に子を持っている。昔は琵琶湖のあゆは他のあゆとはまったく種
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