かくならないから、四方八方にていねいに重曹をすりこむことを忘れてはならない。しかし、重曹をたくさん入れると、まったく元の豆腐になってしまうから、中間だけが少しカスカスした程度の固さが適当だろう。
 そして炭酸が味の邪魔をしてはまずいから、潰《つぶ》れないように手際よく、高野豆腐を水の中に入れて、グーッと絞る。潰れてグチャグチャになったりしては体裁も悪いし味も悪いから、こわれぬように注意することが肝要である。絞り方はちょうど海綿を絞るような具合にすればよい。やわらかいものであればあるほど手際を要するから、やわらかいものの時には注意の上に注意をして絞り出すようにしなくてはならない。炭酸の気《け》のなくなるまで絞らねばならないのだから、少なくとも五、六回は繰り返して絞る必要がある。
 高野豆腐のもどし方はむずかしく、一種の秘伝みたいになっていて、玄人でもやすやすできないことを念頭においておく必要があろう。そんなことはなんでもないと思っても、なかなかうまくゆかないもので、京阪の特別料理をつくる料理屋でもうまくゆかないあり様である。たまに名人がある程度だ。
 そもそも高野豆腐は、昔、高野山の寒気
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