なんかにして食べるほど獲れないのだ。にもかかわらず、佃煮にして食べようというのであるから、ごり茶漬《ちゃづ》けは天下一品のぜいたくといわれるのである。
 今では、生きたのが一升二千円見当もするだろう。これを佃煮にすると、かさが減るから、ぜいたくにおいて随一の佃煮である。
 ごりの佃煮とは要するに、高いごりを生醤油《きじょうゆ》で煮るのである。それを十尾ばかり熱飯《あつめし》の上に載せて、茶をかけて食べるのである。
 昔からごりの茶潰けは有名なものだが、おそらく京都でも食べたことのある人は少ないであろう。京都以外の人では、名前も存在も知らぬ人が多いかも知れない。
 食通《しょくつう》間では、ごりの茶漬けを茶漬けの王者と称して珍重《ちんちょう》している。しかし、食べてみようと思えば、大《たい》してぜいたくなものではない。なぜなら、高いといったところで、一椀十尾ばかりですむことであるから、金にすればなんでもない。ただ五尾か七尾で、名物吸いものにしているのを目前に見ているので、思い切って佃煮にする勇気がしぶるだけのことである。もったいないが先に立って、やっぱり味噌汁《みそしる》にして、平凡に食
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