る。
例をあげると、土佐のかつおのたたき[#「たたき」に傍点]などは、もっとも世間的に有名なものとしてひとびとの耳に入っているが、実際はたいしたことはない。なぜかといえば、土佐という海に面した国は料理が発達していないし、贅沢を知らないひとが多いからである。このため土地のひとにはかつおのたたき[#「たたき」に傍点]が、実に天にも地にもかけがえのないほど、うまく感じられるのである。
以上のように、何事も視野が狭いとこんなことになってしまう。それを都会の半可通がめくら判をおして、土佐のかつおのたたき[#「たたき」に傍点]としきりに鉦《かね》や太鼓を叩きたがるから始末に困る。実際はそれほどうまくもないし、やり方はわれわれからみると、むしろ食いにくいものにしているというほかない。結局、井の中の蛙なにをいうかというオチが出てくる。
底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
1993(平成5)年発行
初出:「星岡」
1935(昭和10)年
入力:門田裕志
校正:noriko sa
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