男の詩はしらないが、詩人だって、食事はするだろう。いや、非常によく分るはずだ。鳥や、花の心が詩人には分るはずだから……。
 わたしはビールを飲む。詩人はウイスキーを飲んでいる。
 わたしは、出来上がった料理にかけるため、かつおぶしをけずる。カンナを使ってけずる。
 詩人は、目を見張っていう。
「先生、ずい分、立派なカンナですね。まるで、大工が使うような、カンナですね」
「これは、大工たちが使うカンナの中でのいちばん上等だよ」
「へえ、もったいないですね」
「どうしてもったいないのだ」
 わたしは、不思議そうに詩人を見た。
 詩人も、上等のカンナでかつおぶしをけずるわたしを不思議そうにみている。
「先生、そんな立派なカンナなら、なにも、かつおぶしをおけずりにならなくとも、立派に、大工道具につかえるではありませんか」
「大工道具に、立派に使えるほどの上等だから、かつおぶしがけずれるんだよ」
 しばらくわたしの手許《てもと》を見ていた詩人はつくづくといった。
「先生の、料理がおいしいのは、先生が、ぜいたくをしているからですよ。きっと、そうですよ、やっぱり、料理は、金をかけないとダメですね」

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