カンナとオンナ
北大路魯山人
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)坐《すわ》って
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ひぐらしの鳴き声が涼しい。
わたしは、わたしのテーブルの前に坐《すわ》って料理をし、客はわたしのテーブルの前に坐っていた。
わたしは、料理をいつも自分で作りつつ食べ、客にもすすめる。
客は詩人であった。
どんな詩をつくるのかわたしは知らぬ。その詩人も、見せたことはないし、わたしも、見せてくれといったことはない。詩人だか、死人だか、わたしは知らぬ。ともかくも、詩人であるということだ。
わたしはビールを飲む。ビールだけ飲む。風呂から上がって、まだ、体に湯気が上がっている中《うち》にビールを飲むのはうまいものだ。
わたしの坐っているうしろには、紙を細く切って、それに、全国から集まった材料や、名産の名前が書いてある。新しく送られた品は、すぐ、この細い紙に書き入れられて張られる。だから、それを見ると、いま、どんなものがあるか、なにが品切れかということが、すぐに分るようにしてある。
詩人は、それを念入りに読んでいる。
詩をよむつもりでよんでいるのかもしれない。この
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