思ふのだ。』僕はぎよつとした。彼の音楽的なる言葉は僕をみるみる内にひきつけようとする。彼はかの不思議なる中学時代の魔力に更に十倍した魔力を以て僕を自分へ引つけようとするのだ。しかも[#「しかし」と思われるが原文のまま]僕は握られたる手を払ひ退けた。そして彼を睨みつけて叫んだ。『君は何を言ふんだ。僕と君との親交はすでに昔の事だ。今は僕に妻がある。僕はその女を熱愛して居る。彼女以外僕の生活には何物もない。犯罪者の弟子には僕は勿論ならないのである。早く僕をこの坑から外へ出して呉れ。君と僕とはもう永久に友人とならないのだ。』
(七) 奇怪なる暗示
彼は依然として微笑した。そして僕をなだめる様に手を振りながら説き始めた。『君はさう言ふのか。それは当然だ。すでに君が俺に執着のない以上決して強ひてとは言はない。しかし俺は永劫に君に執着して居る。俺は必ず君にまた僕[#「僕」は「俺」と思われるが、原文のまま]に対する執着を持たして見せる。それで俺は俺の思想を一言君に物語らう。堅く君に告げよう、およそ君にとつて殺人ばかりの快楽は此世界に求められないのだ。君が若し人生の美味なる酒を完全に飲み乾したけれ
前へ
次へ
全28ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
村山 槐多 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング