さつきの電報が一層不思議になつた。時刻から考へると金子はあの電報を打つて帰るとすぐ死んだ物らしい。自分はそつとまた九段坂の上へとつてかへして考えた。電報の三〇一と云ふ数字は何を意味するのであらう。九段坂の何処にそんな数字が存在して居るのであらう。見廻して見るに何もない。ふと気が付いた。九段坂の面積中で三百以上の数字を有つて居る物は一つしかない。それは坂の両側上下に着いた溝の石蓋である。そして始め上から見て右手の方の石蓋を下へ向つて数へ始めた。そして第三百一番目の石蓋をよく調べて見たが何も別段異状はない。殊に依ると此は下から数へた数かも知れない。石蓋は全部で三百十枚ある。だから上から数へて十枚目が下から数へて三百一枚に当る。駆け上つて其石蓋をよく見ると上から十枚目と十一枚目との間に何だか黒い物が見える。引出して見ると一箇の黒い油紙包である。『是だ是だ。』と其を掴むや宙を飛んで家へ帰つた。
包みを解くと中から一冊の黒表紙の文書が表はれた。読み行く中に自分は始めて彼金子鋭吉の正体を眼前にした。その正体こそ世にも恐ろしい物であつた。『彼は人間ではなかつた。彼は悪魔であつた。』と自分は叫んだ。
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