は土、紙、鼠、とかげ、がま、ひる、いもり、蛇、それからくらげ、ふぐであつた。野菜は総てどろ/\に腐らせてから食つた。腐敗した野菜のにほひと色と味とをだぶ/\と口中に含む味は実に耐らなく善い物であつた。是等の食物は可なりの満足を俺に与へた。二箇月の後吾血色は異様な緑紅色を帯び来つた。俺は段々と身体全部が神仙に変じ行く様に感じた。其中に、不図『人肉』は何うだらうと考へ出した。さすがにこの事をおもつた時、俺は戦慄したが、この時分から俺の欲望は以下の数語に向つて猛烈に燃え上つたのである。『人の肉が喰ひたい。』それが丁度去年の一月頃の事であつた。

 (五)

 それからと云ふ物はすこしも眠れなくなつた。夢にも人肉を夢みた。唇はわな/\と顫へ真紅な太い舌はぬる/\と蛇の様に口中を這ひ廻つた。其欲望の湧き上る勢の強さに自分ながら恐怖を感じた。そして強ひて圧服しようとした。が吾舌頭の悪魔は『さあ貴様は天下最高の美味に到達したのだぞ。勇気を出せ、人を食へ、人を食へ。』と叫ぶ。鏡で見ると悪魔の顔が物凄い微笑を帯びて居る。舌はます/\大きくその針はます/\鋭利に光り輝いた。俺は眼をつぶつた。『いや俺は決し
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