お伺いすると老爺は、帰っていったというのである。
私が帰って来たら、妻がその話をした。私には、柳田などという家に、知り合いはない。第一、私は見ず知らずの家から、迎えに来られる身ではない。打抛《うっちゃ》っておけ! と、いっておいた。
五、六日たったら、その老爺はまた来たそうであったが、その時も私は、留守であった。が、妻は私の性質を知っているから、主人がいましても、多分存知ないお宅へは、お伺いしますまい、どんな御用か知りませんが、お直りになってからでもお手紙で、そう仰《おっ》しゃって下さいと、断ってしまったということであった。
それでいいでしょう? というから、ああいいとも、結構だ! と私はいった。用もいわずに人を呼び付けるなぞとは、無礼である。また何のため、そんな見ず知らずの家へ呼び付けられるのか、その理由もわからぬ。私は不快に感じた。
それっきり、その妙な家との交渉は、絶えた。後で聞くと、それから一、二度手紙をくれたということであったが、それも記憶にない。いずれにせよ、その婦人の来訪を受けたのは、その翌年の五月頃であった。
なるほど老爺がお邸《やしき》といっただけあって、相
前へ
次へ
全199ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング