の性格をよく知っていますから、知り合いになったこの家に、ジーナとスパセニアという、妙齢《としごろ》の美しい娘がいるということなぞは、絶対に洩《も》らしてはいません。親の安心するように、家《うち》の立派なことや景色のすばらしいこと、そして主人が外国帰りの教養のある鉱山技師だというようなことばかりを並べたてていたのです。
が、それでも私の帰京が遅れれば、迎えを出すという騒ぎです。また実際、二十幾つになる息子に迎えもよこしかねない、子煩悩《こぼんのう》な親なのです。そしてその迎えでも来て、ここに混血児《あいのこ》の娘たちがいて、それが今まで私の足を釘付《くぎづ》けにしていたのだということなぞがわかったら、家中でどんな騒ぎを起さぬとも限りません。私は父の手紙を受け取って初めて、楽しい夢幻の世界から、また現実の儘《まま》ならぬ世界へ、引き戻されたような気になりました。ともかくその手紙を見せて名残は惜しいが一先《ひとま》ず帰京することに決めました。ジーナもスパセニアももうしばらくいらっしゃい……もうちょっとと引き留めて已《や》みませんでしたが、そういうわけなら親御《おやご》さんも心配しておいでだろうから、お帰りになるのも已むを得ぬ。その代り、夏休みになったらまたぜひ、遊びに来ていただいたらいいじゃないか……という父親の言葉に、不承不承承知して、途中まで送って来てくれることになったのです」
「それで、お帰りになったというわけですね?」と、私がうなずいた。
「そうなんです。……それで娘たちは、大野木まで送って来てくれたのですが……」
と、いいかけて、病青年は言葉を切った。
「そう、そう……一つ、いい残していることがありました。どうしても忘れられないのは、その発《た》つ前の日に……そのことも、もう一つ、申上げておきましょう」
七
その父親からの手紙が来て、いよいよ帰ると決まったら、娘たちはやいやいいいましたが、結局父親が言葉を挿《はさ》んで今いったとおり、帰ることにしました。が、それにしてもそう決まったら、もう一日だけ遊んでって下さいというわけで、中一日おいた明後日《あさって》の朝早く帰ることに決めました。
そしてその翌《あく》る日は、いよいよ今日がお名残の日というので、また岬から工事場の跡、湖の畔《ほとり》まで姉妹《きょうだい》と連れ立って、遊びに出かけまし
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