しげもなく陽《ひ》に晒《さら》して、海水帽を除《と》ってキラキラと黄金《こがね》色の髪を振り乱しながら……その二人に囲まれて、ただ私は黙々として上気し切っていたというよりほか、いう言葉がありません。
今でも私は、そう思っているのです。もしスパセニアがいなくて、ジーナとただ二人だったならば、おそらく私は前後の見境《みさかい》もなく、ジーナをネジ伏せてその場に思いを遂げてしまったでしょう。同じこと、もしジーナがいなくてスパセニアだけだったとしても、私にはスパセニアをあのままのからだにはしておけなかったに違いありません。
水へ入るのは、まだいくらか肌寒く、歩くには暑いさんさんたる太陽の直射を浴びながらただもう夢中で、私は肉の疼《うず》きだけをモテアマシ切っていたのです。そしてやっとのことで、湖の水門のあたりまで辿《たど》り着きましたが、まったく私にはもう、窈窕《ようちょう》も凜々しさもお侠《きゃん》も淑《しと》やかさも何もかもが、一切合切区別つかなくなってしまいました。
ともかく二人|揃《そろ》っているばかりに、辛じて私は理性を奮い起して、不躾《ぶしつけ》な真似《まね》もせずどうにかこうにか最後の一日も、楽しく送ることができましたが、さてその翌《あく》る日|発《た》つ時には、父親は門口まで、そしてジーナとスパセニアは四里離れた大野木村のバスの乗り場まで、私を送って来てくれました。私にはイルシューという赤毛の一番|温和《おとな》しそうな馬を、スパセニアは例の白馬を、そしてジーナは栗毛のプルーストの鼻面《はなづら》を並べて……話といって何にもありません。来月夏の休みになったら、きっとスグいらしてねえ、とただそれだけのことを思い出したように、何度も何度もくり返しているだけです。随分長いのねえ、まだ今日から三十何日もあるわ! わたくし今日から一枚一枚、カレンダーに記《つ》けとくわ! とジーナが淋《さび》しそうにいうのです。いよいよ大野木の乗合《バス》の乗り場に着いてから小浜まで三里、麦畑と切り断ったような断崖《だんがい》の間を、乗合《バス》は走っているのです。二人が心を込めて作ってくれた弁当を持って乗り込むと、停留所の前に馬を停めて、ジーナは私の乗って来たイルシューの手綱を控えて手をふっています。側にはこの十二、三日の間に、すっかり馴染《なじみ》になったペリッチが畏《かしこ
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