が、成仏してくれよな。行くところへ行きなよ。だが口惜《くや》しかんべえ、なあお高! 人に怨《うら》みがあるものか、ねえものか、鬼になって棚田の家に仇《あだ》を返してやれ! 生き代り生まれ代って祟《たた》りをしてやれ。棚田大膳の家に三代たたぬ間に見ろ! この屋敷にぺんぺん草を生やしてくんど!」
そして僧はそのまま野原の方へ歩みを移してしまいましたが、涙ぐまんばかりに凝然と耳を澄ませていた、我儘《わがまま》な家老の心に、また途端に残忍とも、酷薄とも言わん方ない気持が蘇《よみがえ》ってきました。こんな生若い許嫁《いいなずけ》があったばかりに、自分のいうことを聞かなかったのかと思うと、怒りに眼が眩《くら》んできたのです。
「怪《けし》からん奴じゃ、無礼千万な! 勝手気儘に執権の屋敷へはいりおって! 宗八、剛蔵、確之進! 追い駈《か》けて行って、搦《から》め捕ってこれへ引き据えエ!」
青筋たてた悪鬼のような主人の下知《げじ》に、早速家来たちは僧の後を追い駈けましたが、骨強い、おまけに反感を持って、頭のおかしくなっているこの僧が、なかなか家来たちのテゴチにおえるものではありません。主人が主人な
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