ちろん病院の門口まで私たちは見舞に行った。停車場から二、三町足らずの距離であったが、町の世話役らしい人々が多勢詰めかけて、病院の入り口はごった返していた。そしてそこには私たちの泊った丸源の亭主もいたが、眼敏《めざと》く私たちの姿を見つけると大急ぎで飛出して来た。
「とんだ御迷惑をお掛けしまして……またどうぞお懲《こ》りなく、ぜひお近いうちに」
 と、頭を下げた。それにつれてその辺にいた人々も何かは知らず頭を下げた。
「とうとういけませんでした。一人残った妹の方も、つい今し方息を引き取りました」
 と亭主は身寄りの者にでも話すかのようにしんみりとそう言った。
 わずかばかりではあったが霊前へ供えてくれるように頼んでおいて、逃げるように私たちはまた停車場へ出て来たが、身を切るように寒い朝の町はしいんとしてまだ人っ子一人通ってもいなかった。もちろんまだ札幌へ引揚げようという気持も起らず、さりとてこれからどこへ行こうと決めていたわけでもなかったが、ともかくやっと汽車が動き出して外《ほか》に相客もない二等車の中でガチガチ震えながら、だんだん遠ざかって行く国境の連山の裾《すそ》にこの不思議な思い出
前へ 次へ
全18ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング