うかという気持が、ムラムラとしていたのであった。ところが、いくら勧めても飲むまいと思いきや! どういう風の吹き廻しか、奴《やっこ》さん顔を顰めながらも渋々と、
「では、そのキャコントウというのを飲んでみようか」
 と言い出してきたのであった。御意《ぎょい》の変らぬうちにと、私は早速御苦労千万にも近所の薬屋から葛根湯を一包とついでに万古《ばんこ》焼きの土瓶を買って来て、野郎の面前でガス焜炉《こんろ》へ掛けてグツグツと煮たて始めたが、こっちは笑いを抑えるのに骨が折れたが、グスの方では神ならぬ身の知る由もなく、さも親切そうに私の煮たてている側へやって来て、
「副作用はほんとうにないんだろうな?」
 と土瓶の蓋《ふた》なぞを取って、胡乱《うろん》そうに中を覗《のぞ》いたりしているのが、何とも滑稽《こっけい》で仕方がなかった。
 ともかくグスタフは葛根湯を飲んだ。顰められるだけ顔を顰めて、眼も鼻も口もクチャクチャになくしながら、
「|お飲み《トライ》!」
 と私の差し出した茶碗を仇敵《かたき》のごとくに持ち扱いながら、一口飲んでは首を振ったり顔を背けたり、無理やりに飲み下していた。が、そのたんびに何か込み上げてくるとみえて、慌てて胸を撫《な》で下ろしていた。そこでそろそろと始まってきたわけであった。
「おっ! 俺は一つ君に言っておくのを忘れていた」
 ヒェー! とばかりに野郎が飛び上がった。
「薬のことか? 今の薬のことか?」
「そうだ! 一つだけ副作用のあるのを忘れていた!」
 途端に神経の顔色が颯《さっ》と変った。
「だから俺はそんな日本の妙な薬なぞを飲むのは厭《いや》だと言ってるのに、医者でもないくせに君が無理やりに勧めておいて! ああ困った、もう吐き出すこともできんし、どうにもならん! 俺は実際、薬の副作用だけは何より嫌いなのだ! AW《アウ》! SUCKS《シャクス》! これは弱った」
 と気の早い男があったもので、碌々《ろくろく》聞きもしないうちからもうグンニャリして、椅子《いす》に蹲《うずくま》った。そして恐る恐る顔を擡《もた》げて、
「副作用というのは一体何だ?」
 と聞いた。
「大したことはないが、一時熱が出て眩暈《めまい》がするだけだ」
「それが大したことでないどころか!」
 とグスの顔から、見る見る血の気が引いた。
「そいつは困った、なぜ君は、そういう重
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング