位の地理的認識しか、持つていなかつた私である。ところが、三角《みすみ》港を出た船が、十分も航程を経ない中に、おびただしい島々のあるのに、私は先ず驚かされた。しかもその島々の自然的配置が面白く、恐らく火山島だろうと思われる、奇石怪岩がいたるところに散在して、後で聞いたが、天草松島といわれているのも、さこそとうなずかれる風景であつた。船は、無人島らしい島々の間を紆余曲折していく。私は、移り行く風景の面白さに、時に松島を思い[#「思い」は底本では「思ひ」]、時に瀬戸内海を航行した日のことを、思い出しながら、吹きつける北風と、舷側に散る水沫をさけていた。
 大矢野《おおやの》島と千束《せんぞく》島(この島は天草の乱の策源地といわれている)の間をぬけ、やがて上島近くにさしかかると、雲はいく分切れ、風も弱まつたようであつたが、波はいよいよ高く、時にもり上がるうねりに乗上げると、からだの中心を失いそうにさえなる。同時に、さつと白い飛沫がとび散る。外海――といつても有明海だが――に出ると、波のうねりは一段と高くなり、この位の連絡船では、とてもおし切れそうにも思われない。本渡町までの予定を変更して、大浦
前へ 次へ
全16ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷 健 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング