スキー登山を試みんとして問合す向きもあれど実行した様子もない。真に剛健質実の気象を養成し、自然の霊気を感得せんと欲する人は途中救助小屋の建設と防寒具の用意もあれば、準備に注意し、何日帰京などと期日は定めずして登山してもらいたい、万一天候険悪の時には数日滞在することもあるにより、家族の人に不安の念を起さしめざるように注意するを肝要とする。
春の尾瀬沼は、朝日の光に雪は赤金光色と輝き、深山の雪もしめりがちとなり気温三拾度に昇れば雨の模様となり、白霧数里、針葉樹闊葉樹白樺に樹氷を結びし景色は、白銀の花というてよかろうか、山人らの如き自然の愛好者は、針葉樹及闊葉樹の梢の少部分が直立し、一円に霧の流れる朝の模様は、何と命名したならば適当であろうか。狂気の如く一家族を雪庭に呼集め、その偉観壮大を絶叫するの日が往々にある。雪すべり雪のかけ足等何といおうか。霞棚びきうららかに、小鳥が鳴く、ふくろも鳴く。我を忘れて駆り出す雪舟《そり》に乗り、何れの山に登るにも氷雪にて自由自在、さながら天国の遊戯ともいい得べく、春の一里は夏の二里より歩行にやすし。鶯の声を聞くときの如きは、深山の春の快感を誰にも味わせた
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