るのは好ましくない。この辺に小屋があらば今夜は泊って、明朝早く六万平へ往こうと決心した。幸い半道ほど下に宗平の家の小屋があるというので、疲脚を鞭うって下山した。
 落葉の道は、上りよりも下りはいっそう歩み悪い、ともすれば辷りそうで、胸を轟《とどろ》かしたことも幾度かある、来た道を右に折れてトンボの小屋へ着いたのは三時頃であったろう。

      十二

 トンボの小屋は、下湯島村から一里の、切立ったような山の半腹にあるので、根深き岩の裾《すそ》を切込み、僅かに半坪ほど食い込ましてあとの半坪は虚空《こくう》に突出してある。極めて小さな、そして極めて危険なものだ。僅か一坪の平地すらないこの辺の地勢から考えても、その勾配の急なことが知れよう。
 ここは村から一番奥の焼畑で、あまりに離れているので、畑仕事の最中の俄雨《にわかあめ》に逃げ込むため、また日の短い時分、泊りがけに農事をするためにこしらえた粗末な建物にすぎない。焼畑というのは、秋に雑木林を伐り倒し、春に火をかけて焼く。そして燃残りの太い幹で、一間置きまたは二間置き位いに柵《さく》を造って土留として、六、七十度の傾斜地を、五十度なり四
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