下に積まれてある。
宗忠は身仕度をして来た、なにか獲物《えもの》もあろうというので一|挺《ちょう》の銃も持っている。
早川を渡ると、すぐ急傾斜の小さな坂で、その上は畑が作られて、麦の緑は浅い。石道をゆき、草の中をゆき、いよいよ雑木茂れる山にかかる。道は落葉に埋められ、今朝おりた霜の白きもあり、融《と》けて濡《ぬ》れたのもある。とかく辷《すべ》り勝ちで足の運びは鈍い。
山の傾斜がいかにも急であるために、道は右に左に細かく縫《ぬ》うてつけられてある。小さな沢を渡って十四、五丁ゆくと、樹は漸く太く、針葉樹も変っている。人の踏むこと少きためと、寒さの早いために、落葉は道を埋めて、二、三尺も積もっている。カサカサと徒《いたずら》に音のみ高くて、泳ぐような足つきでは一歩を運ぶにも困難である。剰《あまつさ》え、二日以来足の痛みは、今朝宿を出た時から常ではないので、この急峻な山道では一方《ひとかた》ならぬ苦痛を覚えた。途中の用意にもと、宿から持って来た「サイダー」を一口二口飲みながら上る。「サイダー」は甘味があり粘りがあって極めて不味《ふみ》だ、かかる時は冷き清水に越すものはない、自然は山人に「
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