白峰の麓
大下藤次郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)小島烏水《こじまうすい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)信州|徳本《とくごう》峠
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](明治四十二年十一月)
−−
一
小島烏水《こじまうすい》氏は甲斐《かい》の白峰《しらね》を世に紹介した率先者である。私は雑誌『山岳』によって烏水氏の白峰に関する記述を見、その山の空と相咬む波状の輪廓、朝日をうけては紅《くれない》に、夕日に映えてはオレンジに、かつ暮刻々その色を変えてゆく純潔なる高峰の雪を想うて、いつかはその峰に近づいて、その威厳ある形、その麗美なる色彩を、わが画幀に捉うべく、絶えず機会をうかがっていた。
私が白峰連嶺を初めて見たのは、四十一年の秋、甲州山中湖に遊んだおりで、宿雨のようやく霽《は》れたあした、湖を巡りて東の岸に立った時、地平線上、低く西北に連なる雪の山を見た。白峰! と思ったが、まだ疑いはある。ポケットから地図を出す、磁石を出す、そして初めて白峰! と叫んだ。今自分の
次へ
全50ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大下 藤次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング