、どこでも面白く感ずるのには、種々な原因がある。一つ一つ絵に見えるのには条件がある。仕切りのあるということ、速く走ること、遠くを見ることで、汽車が停まっていてはあまりよく見えない。仕切りのあるのは、見取枠から見たように、図の散漫を防ぐ。速かに走るために、いつも主要ものばかり目に入って、細かいうるさい物は、見る間もなく過ぎ去ってしまう。距離が遠いために、深夜、即ち奥行が充分で、自己の位置が高いために、広い場所が見え、それが車の速力で、よく纏まって見えるからであろう。こんなことを考えているうち、いつか汽車は新宿に着いた。
[#地から1字上げ](明治四十二年十一月)



底本:「山の旅 明治・大正篇」岩波文庫、岩波書店
   2003(平成15)年9月17日第1刷発行
   2004(平成16)年2月14日第3刷発行
底本の親本:「みずゑ」
   1910(明治43)年5月
初出:「みずゑ」
   1910(明治43)年5月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※初出時の署名は「汀鴎」
入力:川山隆
校正:門田裕志
2010年2月3日作成
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