いただ》きに多年風雨に曝《さら》され何ともいえぬ古色を帯《お》びた錫杖《しゃくじょう》の頭と長さ八寸一分、幅六分、厚三分の鏃《やじり》とを発見したことである。鏃は空気の稀薄なるためか空気の乾燥せる山頂にありしがためかさほど深錆とも見えないが、錫杖の頭は非常に奇麗な緑青色《ろくしょういろ》になっております。この二品は一尺五寸ばかり隔《へだ》ててありましたが、何時の時代、如何なる人が遺《のこ》して去りしものか、槍の持主と錫杖の持主とは同一の人かもし違って居るとすれば同時代に登りしものか、別時代に登りしものか、これらはすこぶる趣味ある問題で、もし更に進んで何故《なにゆえ》にこれらの品物を遺留し去りしか、別に遺留し去ったものでなく、風雨の変に逢うて死んだものとすれば遺骸《いがい》、少くも骨の一片位はなくてはならんはずだが、品物はそのまま其処《そこ》に身体は何処《どこ》か渓間《たにま》へでも吹飛されたものか、この秘密は恐《おそら》くは誰《だ》れも解《と》くものはあるまい、なお不審に堪えざるはその遺留品ばかりではない、この絶頂の西南大山の方面に当り二、三間下に奥行六尺、幅四尺位で人の一、二人は露宿
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