ゅちん》の丸帯に、博多《はかた》と繻子《しゅす》との昼夜帯、――黒縮緬の羽織に、宝石入りの帯止め――長浜へ行った時買ったまま、しごきになっている白縮緬や、裏つき水色縮緬の裾《すそ》よけ、などがある。妻の他所行《よそゆ》き姿が目の前に浮ぶ。そして昔の懐かしいかおりまでが僕の鼻をつく。
「行って来ますよ」という外出の時の声と姿とは、妻の年取るに従って、だんだん引き締って威厳を生じて来たのを思い出させた。
まだ長襦袢《ながじゅばん》がある。――大阪のある芸者――中年増《ちゅうどしま》であった――がその色男を尋ねて上京し、行くえが分らないので、しばらく僕の家にいた後、男のいどころが分ったので、おもちゃのような一家を構えたが、つれ添いの病気のため収入の道が絶え、窮したあげくに、この襦袢を僕の家の帳面をもって質入れした。その後、二人とも行《ゆ》く方《え》が知れなくなり、流すのは惜しいと言うので、僕が妻のためにこれを出してやった。少し派手だが、妻はそれを着て不断の沈みがちが直ったように見えたこともある。
それに、まだ一つ、ずッと派手な襦袢がある。これは、僕らの一緒になる初めに買ってやった物だ。僕
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