のぞいている。
 神経の冴《さ》え方が久しぶりに非常であるのをおぼえた。……ビスマクの首……グラドストンの首……かつて恋しかった女どもの首々……おやじの首……憎い友人どもの首……鬼女や滝夜叉《たきやしゃ》の首……こんな物が順ぐりに、あお向けに寝て覚《さ》めている室の周囲《まわり》の鴨居《かもい》のあたりをめぐって、吐《つ》く息さえも苦しくまた頼もしかった時だ――「鬼よ、羅刹《らせつ》よ、夜叉の首よ、われを夜伽《よとぎ》の霊の影か……闇の盃盤《はいばん》闇を盛りて、われは底なき闇に沈む」と、僕が新体詩で歌ったのは!
 さまざまの考えがなお取りとめもなく浮んで来て、僕というものがどこかへ行ってしまったようだ。その間にあって、――毀誉褒貶《きよほうへん》は世の常だから覚悟の前だが――かの「デカダン論」出版のために、生活の一部を助けている教師の職(僕は英語を一技術として教えているのであって、その技術を金で買うように思っている現代学生には別に師事されるのを潔しとしない)を、妻の聴いて来た通り、やめられるなら、早速また一苦労がふえるという考えが、強く僕の心に刻まれた。
 しかし、その時はまだその時
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