えとは違って、実力がない、中味がない、本体がない。こう思うと、これもまた厭《いや》になって、僕は半ばからだを起した。そうすると、吉弥もまた僕の心眼を往来しなくなった。
暑くッてたまらないので、むやみにうちわを使っていると、どこからか、
「寛恕《かに》して頂戴よ」という優しい声が聴える。しかしその声の主はまだ来ないのであった。
十六
僕が強く当ったので、向うは焼けになり、
「じゃア勝手にしろ」という気になったのではあるまいか? それなら、僕から行かなければ永劫《えいごう》に会えるはずはない。会わないなら、会わない方が僕に取ってもいいのだが、まさか、向うはそうまで思いきりのいい女でもなかろう。あの馬鹿|女郎《めろう》め、今ごろはどこに何をしているか、一つ探偵《たんてい》をしてやろうと、うちわを持ったまま、散歩がてら、僕はそとへ出た。
井筒屋の店さきには、吉弥が見えなかった。
寝ころんでいたせいもあろう、あたまは重く、目は充血して腫《は》れぼッたい。それに、近ごろは運動もしないで、家にばかり閉《と》じ籠《こも》り、――机に向って考え込んでいたり――それでなければ、酒を飲
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