我《けが》でもしたらつまらないと思い、起きあがって、窓の障子を填《は》め、左右を少しあけておいて、再び枕の上に仰向けになった。
 心が散乱していて一点に集まらないので、眼は開いたページの上に注がれて、何を読んでいるのか締りがなかった。それでもじッと読みつづけていると、新らしい事件は出て来ないで、レオナドと吉弥とが僕の心をかわるがわる通過する。一方は溢《あふ》れるばかりの思想と感情とを古典的な行動に包んだ老独身者のおもかげだ。また一方はその性情が全く非古典的である上に、無神経と思われるまでも心の荒《すさ》んだ売女の姿だ。この二つが、まわり燈籠《どうろう》のように僕の心の目にかわるがわる映って来るのである。
 一方は、燃ゆるがごとき新情想を多能多才の器《うつわ》に包み、一生の寂しみをうち籠《こ》めた恋をさえ言い現わし得ないで終ってしまった。その生涯《しょうがい》はいかにも高尚《こうしょう》である、典雅である、純潔である。僕が家庭の面倒や、女の関係や、またそういうことに附随して来るさまざまの苦痛と疲労とを考えれば、いッそのこと、レオナドのように、独身で、高潔に通した方が幸福であったかと、何と
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