ございませんか?」
「そりゃア、そうです」と、僕は進まないながらの返事。
「実は、ね」と、吉弥はしまりなくにこつき出して、「こんなことがあったのよ。このお座敷に青木さんがいて、下に田島が来ていたの。あたい、両方のかけ持ちでしょう、上したの焼き持ち責めで困っちまった、わ。田島がわざと跡から攻めかけて来て、焼け飲みをしたんでしょう、酔ッぱらッちまって聴えよがしに歌ったの、『青木の馬鹿野郎』なんかんて。青木さんは年を取ってるだけにおとなしいんで、さきへ帰ってもらった、わ」
こう話しながらも、吉弥はたッた今あったことを僕が知っているとは思わないので、十分僕に気を許している様子であった。僕は、吉弥とお袋との鼻をあかすために、すッぱり腹をたち割って、僕の思いきりがいいところを見せてやりたいくらいであったが、しみッたれた男が二人も出来ているところへ、また一人加わったと思われるのが厭さに、何のこともない風で通していた。
「そんなことのないようにするのが」と、お袋は僕に向った、「芸者のつとめじゃアございませんか?」
「大きにそうです、ね」僕はこう答えたが、心では、「芸者どころか、女郎や地獄の腕前もない
前へ
次へ
全119ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岩野 泡鳴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング