僕はいたたまらないで二階を下りて来た。
しばらくしてはしご段をとんとんおりたものがあるので、下座敷からちょッと顔を出すと、吉弥が便所にはいるうしろ姿が見えた。
誰れにでもああだろうと思うと、今さらのようにあの粗《あら》い肌が連想され、僕自身の身の毛もよだつと同時に、自分の心がすでに毛深い畜生になっているので、その鋭い鼻がまた別な畜生の尻を嗅《か》いでいたような気がした。
一三
田島が帰ると同時に、入れ代って、吉弥の両親がはいって来た。
「明きましたから、どうぞ二階へ」と、今度はここのかみさんから通知して来たので、僕は室を出て、またはしご段をのぼろうとすると、その両親に出くわした。
「お言葉にあまえて」と、お袋は愛相よく、「先生、そろってまいりましたよ」
「さア、おあがんなさい」と、僕はさきに立って二階の奥へ通った。
おやじというのは、お袋とは違って、人のよさそうな、その代り甲斐性《かいしょう》のなさそうな、いつもふところ手をして遊んでいればいいというような手合いらしい。男ッぷりがいいので、若い時は、お袋の方が惚《ほ》れ込んで、自分のかせぎ高をみんな男の賭博《とばく
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