のでないのはもちろんのことだが、青木と田島とが出来ているのに僕を受け、また僕と青木とがあるのに田島を棄てないなどと考えて来ると、ひいき目があるだけに、僕は旅芸者の腑甲斐《ふがい》なさをつくづく思いやったのである。
その田島がてッきり来ているに相違ないと思ったから、僕はこッそり二階のはしご段をあがって行った。八畳の座敷が二つある、そのとッつきの方へはいり、立てかけてあった障子のかげに隠れて耳をそば立てた。
「おッ母さんは、ほんとに、どうする気だよ?」
「どうするか分りゃアしない」
「田村先生とは実際関係がないか?」
「また、しつッこい!――あったら、どうするよ?」
「それじゃア、青木が可哀そうじゃアないか?」
「可哀そうでも、可哀そうでなくッても、さ、あなたのお腹はいためませんよ」
「ほんとに役者になるのか?」
「なるとも、さ」
「なったッて、お前、じきに役に立たないッて、棄てられるに定まってるよ。その時アまたお前の厭な芸者にでもなるよりほかアなかろうぜ」
「そりゃア、あたいも考えてまさア、ね」
「そのくらいなら、初めから思いきって、おれの言う通りになってくれよ」
田島の声は、見ず転
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