、わ」吉弥は真ッかになって、恨めしそうにそれを拾った。
「そんな物で身受けが出来る代物《しろもの》なら、お前はそこらあたりの達磨《だるま》も同前だア」
「どうせ達磨でも、憚《はばか》りながら、あなたのお世話にゃアなりませんよ――じゃア、これはどう?」帯の間から小判を一つ出した。「これなら、指輪に打たしても立派でしょう?」
「どれ」と、ひッたくりかけたら、
「いやよ」と、引ッ込めて、「あなたに見せたッて、けちをつけるだけ損だ」
「じゃア、勝手にしゃがアれ」
 僕は飯をすまし、茶をつがせて、箸《はし》をしまった。吉弥はのびをしながら、
「ああ、ああ、もう、死んじまいたくなった。いつおッ母さんがお金を持って来てくれるのか、もう一度手紙を出そうかしら?」
「いい旦那がついているのに、持って来るはずはない、さ」
「でも、何とやらで、いつはずれるか知れたものじゃアない」
「それがいけなけりゃア、また例のお若い人に就《つ》くがいいや、ね」
「それがいけなけりゃア――あなた?」
「馬鹿ア言え。そんな腑《ふ》ぬけな田村先生じゃアねえ。――おれは受け合っておくが、お前のように気の多い奴は、結局ここを去るこ
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