だ肩あげも取れないうちに、箱根のある旅館の助平おやじから大金を取って、水あげをさせたということだ。小癪な娘だけにだんだん焼けッ腹になって来るのは当り前だろう。
「あの青木の野郎、今度来たら十分言ってやらにゃア」と、お貞が受けて、「借金が返せないもんだから、うちへ来ないで、こそこそとほかでぬすみ喰いをしゃアがる!」
子供はふたりとも吹き出した。
「吉弥も吉弥だ、あんな奴にくッついておらなくとも、お客さんはどこにでもある。――あんな奴があって、うちの商売の邪魔をするのだ」
そう思うのも実際だ。僕が来てからの様子を見ていても、料理の仕出しと言ってもそうあるようには見えないし、あがるお客はなおさら少い。たよりとしていたのは、吉弥独りのかせぎ高だ。毎日夕がたになると、家族は囲炉裡《いろり》を取りまいて、吉弥の口のかかって来るのを今か今かと待っている。
やがて吉弥はのッそり帰って来た。
「何をぐずぐずしておったんだ? すぐお座敷だよ」お貞はその割り合いに強くは当らなかった。
「そう」吉弥は平気で返事をして、炉のそばに坐って、「いらっしゃい」僕に挨拶をしたが、まるめて持っていた手拭《てぬぐい》
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