るものはすべて僕の身に縁がないようだ。
 僕の目の前には、僕その物の幻影よりほか浮んでいない。
「さア、行こう」と、友人は僕を促した。
「これから百花園に行くんです」と、僕も立ちあがった。
「冷淡! 残酷!」こういう無言の声が僕のあたまに聴えたが、僕はひそかにこれを弁解した。もし不愉快でも妻子のにおいがなお僕の胸底にしみ込んでいるなら、厭な菊子のにおいもまた永久に僕の心を離れまい。この後とても、幾多の女に接し、幾たびかそれから来たる苦しい味をあじわうだろうが、僕は、そのために窮屈な、型にはまった墓を掘ることが出来ない。冷淡だか、残酷だか知れないが、衰弱した神経には過敏な注射が必要だ。僕の追窮するのは即座に効験ある注射液だ。酒のごとく、アブサントのごとく、そのにおいの強い間が最もききめがある。そして、それが自然に圧迫して来るのが僕らの恋だ、あこがれだと。
 こういうことを考えていると、いつの間にかあがり口をおりていた。
「どうか奥さんによろしく」と、お袋は言った。
 菊子は、さすが、身の不自由を感じたのであろう、寂しい笑いを僕らに見せて、なごり惜しそうに、
「先生、私も目がよけりゃアお供
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