まない御無沙汰をしていまして――一度あがるつもりですが」と、挨拶をするお袋の言葉などには、僕はもう頓着しなかった。
「菊ちゃんの病気はどうです?」僕は敵の本陣に切り込んだつもりだ。
「あの通り、だんだん悪くなって来まして、ねえ」と、お袋は実際心配そうな様子で「入院しなけりゃア直らないそうですが、それにゃア毎月小百円はいりますから――」
「野沢さんに出しておもらいなさい、な」と、僕は菊子に冷かし笑いを向けた。
「そううまくも行きません、わ」かの女も笑って眼鏡を片手で押さえた。
 その様子が可哀そうにもならないではないが、僕は友人とともに、出て来た菓子を喰いながら、誇りがおに、昨夜から今朝にかけての滑稽の居残り事件をうち明けた。礼を踏まない渡瀬一家のことは、もう、忘れているということをそれとなく知らせたかったのだ。すると、お袋が、それを悟ったか、悟らなかったか、
「もう、先生、居残りは困ります、ねえ。私どもも国府津で困りましたよ。先生はいらッしゃらない、奥さんはお帰りになった、これと私とでどんなにやきもきしたか知れやアしません、わ」
「しかし、まア、無事に済んだから結構です」と、僕はあくま
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