いかにも、もう吉弥ではなく、本名は菊子であった。かの女は男の立った跡へ直り、煙管でおのれの跡をさし示し、
「こッちへおいで」という御命令だ。
 僕はおとなしくその通りに住まった。
 二階では、例の花を引いている様子だ。
「あれだろう?」僕がこう聴くと、
「そうよ」と、菊子が嬉しがった。
 馬鹿な奴だとは思ったが、僕はもう未練がないと言いたいくらいだから、物好き半分に根問いをして見た。二階にはおやじもいるし、他にまだ二人ばかりいる。跡からあがった(それも昼ごろから来ていたという)女は、浅草公園の待合○○の女将であった。
 菊子の口のはたの爛《ただ》れはすッかり直ったようだが、その代りに眼病の方がひどくなっている。勤めをしている時は、気の張りがあったのでまだしも病毒を押さえていられたが、張りが抜けたと同時に、急にそれが出て来たのだろう。井筒屋のお貞が言った通り、はたして梅毒患者であったかと思うと、僕は身の毛が逆立ったのである。井上眼科病院で診察してもらったら、一、二箇月入院して見なければ、直るか直らないかを判定しにくいと言ったとか。
 かの女は黒い眼鏡を填《は》めた。
 僕は女優問題
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